アイデアホイホイ〜3分のヒマつぶし

入れて出す、3分間・・・アイデアを、だよ?

アイデアホイホイセイレーン

おいろはん誕生

6月27日AM3時30分 「たぶんきたと思う。どうする?確実かどうか確かめてからにする?」 「いや、今から向かいます」 夏至を過ぎたばかりとはいえ、さすがに日の出はまだ。外は暗い。 いよいよ陣痛が始まったらしい。 このお義母さんの電話の前にディテ(嫁)からの着信が3件入っていた。背筋が凍る。 「なんで出ないのよ!こんなときに!!」 なんて怒っているディテの顔が目に浮かぶ。 色々な意味で血相を変え、車に飛び乗った。

■ 力が抜けるヒコウ

「よかった間に合ったね♪」 病室には一人しか入れないらしく、お義母さんと交代。 「あ、きたきた。」 分娩室に横たわっているディテ。なんだか余裕の表情だ。 「今日は出産ラッシュみたいで、私以外に二人いるの」 どおりで隣ではとんでもない叫び声が上がっている。 「もうそろそろかな。連絡して。」 看護師さんがドクターだかなんだか言っている。 「う…」 何かの数値が30を越えてくると痛いらしい。ディテが痛みに耐える表情をした。 「パパさん、背中さすってあげて」 「は、はいっ!」 看護師さんに言われるまま、ディテの背中をさする。 「グーで腰の下を押してほしい。コウモンあたりを押して」 こ、校門?校門じゃないか。肛門やんね。 「力が抜けていいらしいの。」 なるほど。力を抜くためのケイラクヒコウなんだね。 未だかつて頼まれたことのない要求に、出産の非凡さをひしひしと感じる。 「隣の部屋の、やわらかいベッドの上で生むか♪?どっちがいい?」と看護師さん。 やわらかベッドを選んだディテが、隣へ移動する。

■ 「やばい、こっちの方が早い!」

相変わらず隣から響いてくる絶叫を聞くたび、ディテの方は冷静さを取り戻しているようだ。怖さを真顔で隠している…ようにも見える。 「お友だちもがんばってるよぉ。わたしたちもがんばろうね。」 自分の中にいる赤ちゃんに話しかけたりしている。 呼吸が浅く、荒くなってきた。それが絶叫に変わるのにそんなに時間はかからなかった。 「赤ちゃんもがんばってるんだよ!叫んじゃだめ、力抜いて、はぁはぁしなっ!力入れたら、赤ちゃん出てきたいのにふさいじゃうよ!」 主任看護師さんの怒号がとぶ。天空の城ラピュタのドーラが看護師だったら、こんな感じだろう。 「40秒で子を生みな!」みたいなね。 なんてったって、痛そうである。 「あ、ディテちゃんの方が早い!向こう抜かしちゃってる。先生呼んでくるわ!」 看護師さんがいこうとするのを、ディテが呼び止め、 「も、もういいですか!!!?」 え?それは赤ちゃんを出していいってこと?? 女医さんが入ってくる。 「はい、さわりますよぉ。あぁ、そこまで赤ちゃん来てますねぇ。大丈夫ですよぉ。」 ディテが叫ぶ。 「はぁ、はぁ、するよ!」 部屋中のみんなが同じリズムで「はぁぁぁ、はぁぁぁ」をする。あたたかく、あつく、やさしい一体感… 「上手上手、いいですよぉ」 …あ、頭が出てきている。私からは見えるが、ディテからは見えるのだろうか。 「お母さんわかりますか?赤ちゃんの頭がもう出てきてますよ。」 「ディテ、見えてるで。もうちょっとや!」 女医さんはディテの手をとり、赤ちゃんの頭に触れさせた。私はひたすらディテの側面をさする。 同日AM5時01分 ディテ最後の絶叫の後、、、我が子、初めての声がこだまする。産声というのか、これを。 繋がったまま、自分の胸にやってきた我が子を抱きしめ、目を濡らしながらディテがこういった。 「はじめまして、やっと逢えたね」