雨…か。 電車を降りる頃にはやんでいるだろう、なんて覚悟が足りないことをしていたもんで、これから訪れる自分の濡れ場に軽く笑ってしまう。
■ 濡れ場
自転車に乗ってきたので乗って返らねばならぬ。 カバンをリュックタイプに変形し、 「よしっ!」 小さい折りたたみ傘片手に覚悟を決めてペダルを蹴った。 電車を降りて実に900秒後のことだ。 結婚の覚悟を決めたのが3秒程度であったので、一世一代の決心と言っても過言ではないほど時間がかかっている。 電車を降りて20分が経過したとき、家の前で自転車を降りていた。 計算してもらえば判るだろうが、非常に長い道のりであった。 そして悲劇が幕を開ける。
■ 利口な猫
にゃー!にゃー! シロキチは利口な猫だ。飼い主が帰ってくるとすぐに判るらしい。 いい子だ、ちょっと待っていろ、私はすぐに… 無い…鍵が…キーが…グッチのキーホルダーごと…無い。 家から持ち出した記憶も…今日は…無い。 にゃーーーー!にゃーーーーーーー! どんどん飼い主を呼ぶシロキチの鳴き声が悲痛なものに変わっていく。 すまない、ここまで来て私はこの扉をこえられぬ。 いつも簡単に乗り越えているぶん口惜しい。
■ 降ってわいたような散歩
キィーー 姉「いってきまぁーっす。あ、センセイだ」 弟「センセイだ」 なぜか私のことをセンセイと呼ぶ隣人の子ども達が現れた。 姉「どこいくの?」 アフロ「ドラッグストアやで」 鍵が無いことを悟られないように、傘をさして一緒に歩き出す。 弟「猫鳴いてるよ?」 姉「私たちが通ったら、いつも鳴いてるね」 アフロ「あぁ、そう?」 シロキチは利口な猫だ。隣近所のおべっかつかいまで余念がない。 アフロ「で、どこにいくん?」 姉「私たちは、お母さんが体の具合が悪いから、自動販売機で飲み物買ってきてって」 アフロ「あぁ、そう…あ、そんじゃ、こっちやから」 姉弟「「ばいばーい」」 ドラッグストアに行き、アクエリアスのペットボトルと栄養ドリンクを買って、隣に届けた。 …当分私は入れそうにない…風邪を引きそうなのは、こっちの方である。