ピャン…ピロリロン…ジャーン 音だけで判る。 隣の部屋で妹子が特等席についたらしい。 ピャン…あっ…跳び乗った ピロリロリン…動いた …ジャーン…落ち着いたね ピアノというより電子ピアノ、クラビノーバなのだが、電源を切り忘れたときはこうなる。 初めのうち、スイッチが入っていると妹子にとっては災難であった。 飛び乗ったはイキナリ鳴るで、 ストリートファイターの春麗よろしく、三角跳びみたいな動作をしてはビビってあっちゃこっちゃ逃げまわる始末である。 どこで鳴ったのか判らない、原因がつかめないで、やめりゃいいのにまた 跳び乗り→鳴る→跳び逃げる の繰り返し。手に負えない。 新しい遊びかい? こっちは試験の勉強も落ち着かない…と、はかどらない言い訳にはもってこいである。 ふてぶてしさでは一家一の妹子。 いつのまにやら慣れてしまったようで、 鳴ろうが「止めてよ!」ピアノに叫ばれようがお構いなしに乗っていく。 人間の感覚では、鍵盤上なんてガタガタで落ち着ける意味が判らないのだが、 「ふんっ、私がいいんだからいいのよ」 とこちらを見下しながら、あいつは眠りに入っていくのだ。 「あら?今日は鳴らないのね…ポチっと」 妹子が自分でスイッチを入れる日も、そう遠くないかもしれない。 秩序なき旋律を即興で奏で、作曲しては世に贈りだし悦には入っているピアニスト…ジャイアンだよそりゃ。あぁヤダヤダ。