アイデアホイホイ〜3分のヒマつぶし

入れて出す、3分間・・・アイデアを、だよ?

アイデアホイホイセイレーン

HEROになれない

今日は泊まりがけの登山引率…の予定であった。 が、なぜか帰宅している。

■ 決して引率が面倒なわけではない

登山における私の主な役割は「学習係」。 つまり、事前学習をして、友だちに登山の知識を発信していく係をサポートする職員である。 登山に行くまでが勝負なわけで、登山真っ最中では息を潜めて行動しているのが、私と学習係のみんななのだ。 引率者としての仕事以外、大きな仕事はない。 だからこそ、引率としての仕事で「いざ」というときのものが回ってくる。 それが、 「負傷者出たら一緒に下山、そして登る係、アフロさんね」 というわけだ。 下山したら終わりではない。また登るのである。 大変そうだが、勇者だ。 それに大人数で登った後、負傷者と一緒に下りて、そこから一人で登るのは、内心楽しみであった。 決して、引率が面倒なわけではない。 他の職員がやっていないことをやるのがワクワクするのだ。 「みんなは怒号とばしつつ、子どもらと登ってるんやろなぁ」 と考えながら、建前は「いち早く追いつかなければ」という風貌でさっさか、しかし高山病になってもあれなのでと、悠然と登る。 かっこいい。勇者。すげー。 決して、引率が面倒なわけではない。

■ いざ下山

今回は、登る前から途中下山か、と言われていた子がいた。 「この間の大会で太股がミート・バイバイ(肉離れ)しちゃいまして…上までは無理かと」 お母さんと一緒に集合してきたのだ。 「負傷者出たら一緒に下山、そして登る係」 この係が、こんなにも早く起動確定しているのも珍しい。 休憩のたび、声をかけにいった。 「どないや?大丈夫か??」 登山ガイドさんと看護師さんに手厚く囲まれた彼は、ちょっと眉をひそめつつも、 「大丈夫っす」 と返答した。 それが、3回ほど続いたのだ。 3回…。そう。もうすでに相当上まで登ってきている。 ここは昼食休憩の雪渓。 一人でいけば、小一時間で頂上山荘についてしまうような場所だ。 周りの先生、登山ガイドさん、旅行会社さん、看護師、隊長(校長先生)が判断する。 「これ以上は無理だろう。」 「登れても、ふんばりの効かない足に疲労がたまっては、明日下山できない。」 「ここから下りますか。」 全員が私の方を向く。 そう私は「負傷者出たら一緒に下山、そして登る係」…一番責任を持っていなくて、身軽で体力ありそうな人材、アフロ。 少し下りてきてくれた山荘主人も加わり、また話し合いが始まる。 「でもここまで登ってきて下山となると、下につくのが午後4時…」 「もう一回登ってくるのは無理ですね」 再び全員が私の方を向く。 そして隊長が一言。 「アフロさん、お母さんに引き渡したら、そのまま撤収してください。」 「すまんね」 「気をつけていってきてよ」 口々に声をかけてくれるが、 「負傷者出たら一緒に下山、そして登る係」のときの哀れみの視線、すごい人を見るような視線と違い、 「負傷者出たら一緒に下山、そして帰る係」になってしまったことで、若干、視線に「羨ましさの光」が混じっている気がする。

■ 一足先に帰校

山の麓まで生徒のお母さんに迎えに着てもらい、一緒に乗っけてもらって帰校した。 部活中の生徒が声をかけてくる。 「あれ?もう下山?泊まりでしょ?登れなかった?」 理由を知らないのだからしょうがない、職員室に入っても驚きの声。 「ど、どうした?」 「な、なんで?」 ひそひそ声も聞こえる。 「なんで帰ってきちゃったの」 理由を話すと、 「ははは!前代未聞だぞ、それ!」 そう、未だかつて「負傷者出たら一緒に下山、そして帰った奴」なんて一人もいなかったのだ。 なぜだろう。下山させて、単独登れば勇者だったのに、どうしてこうなってしまったのだろう。 完全に「登れなかった奴」的なレッテルを貼られただけでなく、皆が山の空気を吸っている明日も学校へ行き、登山職員が年休をとる明後日も学校に来ることになってしまった。 どうして、こうなったのだろう。