歩いていると突然声をかけられた。 「あの善光寺はあっちでしょうか?」 バイクのヘルメットを小脇に抱えたスポーティーな女性が、私の進行方向を指さしている。 スポーティーな女性は小学生の頃からタイプである。 だからというわけではないわけではないが、いつもより三倍増しの丁寧さで応対することにして、 私はこう答えた。 「そうですよ!」 「あ、よかった!」 ツイている。 これでしばらく話しながら歩けるぞ、と思った瞬間、 「ありがとうございました!」 彼女はペコっと頭を下げ、これまたスポーティーなフォームで走り去ってしまったのだ。 私は見惚れた。 ヘルメットをラグビーボールのように抱える細くしなやかな腕、 背負ったリュックを規則正しく揺らす小さくも力強い後ろ姿… 颯爽という言葉は、こういう姿を表すときに使うものかもしれない。 そのとき私は気づいた。 一緒に歩けなかったことなんてどうでもいい。 でも、あなたに伝えたいことがある。 いや、伝えなければいけないことがある。 私は走り出した。 あなたの姿は綺麗です。 私はあなたと並んで歩きたかった。 あなたはとても綺麗で素敵ですけど、 本当は善光寺、真逆なんです。 ただ少し、ほんの少し素敵なあなたと話しながら歩きたかった… こんな私を、許してくれますか?