アイデアホイホイ

とある先生、学びの記録(肺炎療養中)

6年生を送る会

線香花火は、落ちるその前が激しく、そしてあたたかい。
卒業する6年生は、決して落ちるわけではない。
でも、その卒業間際に、あたたかさを私に見せてくれた。

その学校の「6年生を送る会」は、来年児童会を率いていく5年生主導のもと行われる。
各学年が、装飾、入場曲、アーチ作りなどなどを分担し準備するだけでなく、6年生に対する出し物も練習する。
書いていて思うが、すごいイベントだ。

6年生には演し物の内容は明かされない。
6年生も、お返しの演し物を準備する。

「合奏をやりたいな」

一人の子が言ったことに、6年生のみなが賛同する。
合奏となると、楽器の準備に関しては、演目が1曲だろうが音楽会と変わらないレベルになる。
「1曲のために…」という言葉が、大人の私の喉まで上がってくる。

「でも、やりたい。」

毎年の恒例となると、合奏ではなく合唱の練習をすることが多い。
準備と練習の兼ね合いからである。

「中学に行ったら、合奏ってできないでしょ。小学校で最後だからやろうよ」
「音楽の時間でも、『今までの合奏をやってみよう』って練習してるから大丈夫だよ」
「教育実習の先生にも、サプライズで『フレンド・ライク・ミー』を演奏したんだから、今回もいけるよ」

サプライズは楽器がある音楽室に実習生を誘ったからできたけど、全校生徒を音楽室に呼ぶわけにもいかない。
6年生を送る会の会場は体育館。3階の音楽室から楽器を運ぶにはハードルが高い。

そっと、音楽専科の先生に相談する。

「合奏ですかぁ。音楽室から体育館に持っていく楽器をしぼれば大丈夫じゃないかな」

無理を通してくれそうな雰囲気だ。
本当にお世話になりっぱなしである。
全部を取りまとめている5年生の先生にも相談する。

「いいんじゃないですかね。6年生がやりたいなら、やらせてあげてください。」

あたたかすぎる。
子どもたちは、自分たちでも音楽の先生に相談したようだ。
演奏する曲は『情熱大陸』に決定した。
5年生のとき、音楽会で演奏した曲である。

子どもたちは、休み時間に練習し、音楽の先生にも見てもらっていた。

「最後の合奏だ。みんなで合わせる最後の合奏。感動してもらいたい。」

そういう意気込みがこもっていたと思う。
その情熱は、熱く焦がされるようなものではなく、どこかあたたかいものであった。
打ち上げ花火ではなく、線香花火。

ああそうか。
卒業間際、急に成長し、あたたかく見えたんじゃない。
見えてなかっただけ。この人たちは、もう、こんなにあたたかい人だったんだ。

本番、各学年からのプレゼント、メッセージ、歌に6年生は笑顔になり、涙を流す子もいた。

情熱大陸を演奏し終わり、
「6年間、ありがとうございました」
のかけ声。

6年生を含む全校の子どもたちの笑顔で、会は閉じられた。

「6年生を送る会」が終わり退場したあと、会場の楽器片づけに戻った。
片づけ終わり、体育館から帰るとき、廊下の壁を見て、みんなが立ち止まる。
本番、体育館の壁に貼られていた「6年生それぞれの写真と寄せ書き」が、そこに貼り直されていたからだ。

みんな、ついには座り込んで、じっくり眺めていた。
そこに流れていた空気のあたたかさを、きっと私は忘れない。