アイデアホイホイ〜3分のヒマつぶし

入れて出す、3分間・・・アイデアを、だよ?

アイデアホイホイセイレーン

伊坂幸太郎の『砂漠』が、、なんてことはまるでない。


「その気になればね、砂漠に雪を降らすことだって、余裕でできるんですよ」

色々な小説を乱読している最中で、書くことがおろそかナウだが、この本はもう感動が止まらない。
筆が止まらない。
西嶋が止まらない。

北村が好きだ。鳥井が好きだ。南が好きだ。東堂が好きだ。そして、西島が好きだ。

主要人物のどの人物になってもいい。そんな自分でありたい。そんな人に成長していきたい。
そう思えるような魅力あふれる5人の大学生織りなす「モラトリアムどたばた物語」、伊坂幸太郎さん著『砂漠』である。

■ 主人公「北村」

『砂漠』は、主人公兼ナレーションの「北村」の視点で描かれる。

鳥井にいわせると、大学生は2種類に分けられるらしい。
鳥瞰型と近眼型だ。

そして当の北村は「鳥瞰型である」と鳥井は断言する。

読者にとっても語り部の北村は、物事を上から見て冷静に語ってくれるので、やはり「鳥瞰型」であろう。
のちにふれる「西嶋」が語ったりしたら、物語が「THE ニシジマワールド」、見え方が曲がりに曲がってしょうがない。

北村と深く付き合うことになる「彼女」に言わせてみても、「冷血漢め」だから、なるほど、物事を俯瞰し冷静沈着に客観視できる人物…語るにふさわしい。
そして、北村、あなたから話を聞けて本当によかったよ。好き。

■ 最初の友人「鳥井」

で、物語冒頭、主人公北村のことを「鳥瞰型」と見事に推察してしまう男こそ、最初にできる友人「鳥井」である。

主人公に言わせると「かわせみ」のような頭で、つきぬけて明るい。そして軽い。
女性関係にも軽ければ、行動も軽い。鳥井の

「だって楽しそうじゃんか」

に主人公たちは乗せられていってしまう。
こういう人が仲間にいると、安心してその場にいられるよね。

こいつがいれば、盛り上げてくれる。合コンでもなんでも。
そりゃモテるわ。
それ加え、金もある。

「親が金に困っていないだけだよ」
「そういうのがブルジョアなんだ」

見てくれ悪くなく、雰囲気も作れる。突き抜けて明るく、フットワークも軽い。そして金を持っている。
いけ好かない感じだが、知れば知るほどいい奴なんだよな。

物語の中で色々やらかすのだが、彼がどうなっていくのかを是非見てほしい。
鳥井に出逢えてよかった。好き。

■ 「南」あなたに癒やされる

鳥井と出逢った新歓コンパ(的な飲み会)で、北村は「南」にも出逢う。
鳥井のノリ(後々定番になるのだが)にひっぱられるような形で2人組の女の子の向かいに座る。その2人のうちの1人が南だ。

もう一方の女の子は関西弁で、南のことを「この子、ほんま無口やから」と紹介する。
ただただニコニコ微笑む南が醸し出す雰囲気は、どんなに夜であってもそこだけ陽だまりになってしまう。
よくしゃべる関西弁の女の子ではなく、ここから関わりが深くなっていくのが無口な南だから面白い。

そんな感じかもな、、、と思ってしまう。

で、南なのだが、伊坂幸太郎さんの作品によく出てくる「超能力者枠」である。
スプーンを曲げるような手品的な力だけでなく、物を動かすサイキック的な力もある。

この力が物語の色々な部分でフワフワと効いてくる。

ただ、ここで改めて書くこともないのだが、南の魅力は超能力ではないのだ。そこにいるだけであたたかい、その陽だまり感。

このあたたかさを思い返すだけで、少し目頭が熱くなってくる。
あの南、、、好き。

■ 鉄仮面のマドンナ「東堂」

3人が最初に繋がるこの飲み会で、主要人物であるにも関わらず接することはもちろん、目が合うことすらない人物がいる。それが「東堂」だ。

理由は簡単で、東堂嬢の周りには次から次へと男子学生ばかりが集まり、まったく近づけない。
というよりも、北村は「必死すぎないか」と冷めてその光景を俯瞰しているのだし、鳥井は「今はやめておくよ。」と笑っているのだ。

東堂は無表情の美人である。それはもう絶世の。

関西弁のよくしゃべる女の子よりも南だったように、ここで群がっている男子学生たちとではなく、北村や鳥井や南、そして西嶋たちと東堂は関係を作っていく。

東堂はかっこいい。そのかっこよさは東堂の外見という眩しすぎる長所に隠されて見ることができない。ただ、そのかっこよさを感じ、見ることができたのが仲間たちなのだ。

見れた私も、仲間だと思う。好き。

■ 尖りすぎた熱き漢「西嶋」

この5人のすごいところは、お互いの本質的な魅力を見抜き(感じ?)尊重し合っているところだ。
じゃなきゃ、この「西嶋」とは友だちになれない。

東堂には、外見的な美しさによる他者の邪魔で近づけなかったが、西嶋はその登場シーンのあまりの鮮烈さに、周りはドン引きし…結果北村たちも近づかないでいた。
東堂のとき同様、俯瞰し冷静にそれを見る北村は、どういうわけか西嶋の言葉に耳を塞げない。それほどまでに、何かしらの魅力を感じている。

後々、東堂は語る。

「西嶋は臆さない」

北村たちも信頼する。

「西嶋は臆さない」

前進前進、また前進。
鳥井はフットワーク軽く進んでいくが、説得などには耳をかすかもしれない。
しかし、西嶋が進み出したら止められる人はいない。突進なのだ。
その突進に、「何かをやってくれそう」「西嶋なら」という期待をこちらも止められない。

西嶋が大好き、を止められない。

■ 伊坂幸太郎『砂漠』

こんな魅力ある5人が織りなす物語なのだから、面白くないわけがない。
そしてうらやましくなるくらい仲が良い。

「ジョーイ・ラモーンは記者に、『どうして、そんなに長くバンドが続いているんですか?って質問を受けて、完璧な答えを口にしたんですよ」
「何て?」東堂が、牌をつかんだまま、目だけで西嶋を見た。
「何て?」南も微笑むようにしながら、興味深そうに言った。
「何て?」
「何て?」と鳥井も便乗してくる。
「ジョーイ・ラモーンはこう言ったんですよ。長くバンドを続けるには」西嶋はそこで、ぐっと口を閉じ、僕たち四人の顔を順番に眺めると、言った。

ぜひ一緒に学園生活をこの5人と体験してほしい。

作中に出てくるとある言葉に盛大裏切られながらも、「こんな物語を読んでしまったら、『また学生生活に戻りたい』と思ってしまうじゃないか」と批判する自分がいて、もう一度オルさん(愛妻)と恋愛をやり直したいと思ってしまう。

ということで、『砂漠』を読んだおかげで、大学を2人で受験しなおし、熟年学生恋愛をはじめることにしました。

なんてことは、まるでない。


オーディブルも聴き出しました。オススメ。
主人公北村の声、鳥井の声、西嶋の声、南の声、東堂の声を使い分けるすごさ・・・感服です。