アイデアホイホイ〜3分のヒマつぶし

入れて出す、3分間・・・アイデアを、だよ?

アイデアホイホイセイレーン

その手

ドラクエ、ファイナルファンタジーを超えた世界

by:recubejim 「開けてください」 とガソリンスタンドで言われた。何のことか想像できた方もいるのではないだろうか?

■ ガソリンスタンドで「その手」

給油口のことである。 そういう初歩的なミスをおかすことが私にはよくある。 ガソリンスタンドの敷地内に入るその前から、 「給油口のレバーを引く、給油口のレバーを引く、給油口のレバーを引く」 と心の中で念じているのだ。 忘れるわけがないと思ったら大間違いで、 「レギュラー満タン、現金でお願いします」 と店員さんに伝えた瞬間、 「給油口開けてくださぁぁい!」 どっかに飛んでしまっているらしい。念じることが仇になり、開けた気になっているのかもしれない。困ったものである。 「すみません!給油口開けてください!」 しかし、今回は違う。私は開けた。レバーを確実に引いた。開けたはずなのだ。 それなのに開けてくださいと言ってくるとはどういうことだ…とサイドミラーをのぞく。 確かに開いていない。 もう一度引く。おや…開かないではないか。 降りてみてわかった。寒い土地にありがちなことである。 給油口の扉についた水滴が凍って開かないのだ。 私はおもむろに人差し指・中指の爪で扉のふちについている氷をはいだ。 ガコっ!! ビックリ箱のように突然開いたそれに、したたかに指先を攻撃され、思わず小学校の頃受け損なった憎きドッヂボールを思い出す。 かじかんだ手で、打撃を受けた指を包み込みながら耐えていると。 「あ、開いたんですね」 先ほどの店員が戻ってきた。 手に湯気の立つヤカンを持って。 まさに「その手」があったか、という瞬間である。 この手が私の無知を責め、睨んでいるような気がした。

■ ドラクエファイナルファンタジーを超えた世界

会社のトイレは何をかくそうボットン便所である。 「ボットン便所」というものを知らない人がいるかもしれないので、念のため説明しておくと、ボットンと落ちる便所のことである。 難しい言い方をすれば、水洗ではなく、特定の場所に人間の出すアレやコレやを溜めておく便所のことだ。 うちの会社のボットン便所はもう少し文明が進んでおり、ボットンと落とすだけではなく、しっかり水でも流すという半水洗便所である。 落ちるところに弁的なフタがついており、その上に一回分のアレやコレを溜め、事が終わり次第水を流し、その重みでフタが開いて色々なもの(液体のアレ、固体のコレ、日頃の悩み、ストレス、愚痴、文句、悪口、弱音、愛、水など)を吸い込ませる。 まるでブラックホールだ。 「なんで弁のようなフタがついているの?開けたままにしておけばいいじゃないの?」 口が開けたままのボットン便所ほど恐ろしいものはない。 実際うちの会社には、一年前までそんなボットンが存在した。 構えに入り、気張り、ひねりだす、………ぽちゃん。 工事現場にある簡易便所とはわけがちがう。 普通の着地とボットンでの着地、その差は刹那に違いない。その時間はとてつもなく長く感じられる。産み落としてから着地音がするまでの間、 「ちゃんといけたかな」 気が気ではない。 初めてのお使いに我が子を行かせる親の気持ちが手に取るようにわかる。 違うことといえば、 「戻ってきてくれるな」 という、この一点のみだ。 まだある。 先ほどもふれたが、この穴。ブラックホールのように底知れぬ雰囲気を醸し出している。 そのほの暗い穴の底から上に流れ出る空気は凍てついており、そりゃもうとんでもない攻撃力を持っているのだ。 その凍てつく息に局部をさらしている状況、現実世界はもちろんドラクエの世界でだってあり得ないことである。 切れ痔必須コンボ。 さらに臭い。 モルボルにだって負けていない。ファイナルファンタジーを超えた世界が、我が社のトイレには存在している。 オメガ・トイレ・ファンタジー

■ トイレで「その手」

同じトイレ(といっても弁付き半水洗ボットン便所の方)がある社宅に住んでいる同僚がいる。 「トイレ、流れなかったんです」 相手は女性なので、何が流れなかったのかは聞かず、話の先をうかがうと、 「フタが開かない状況で、水を流してもダメなんです」 要するに弁が閉じっぱなしになったそうだ。 その場にいた社員はその原因を全開一致で、 「凍ったね」 と判断した。 同僚は、 「押し込んだらよかったですかね?」 え?うんこごと? 「そら、お湯入れればいいじゃないの」 え?お湯で煮立たせるの?うんこを? 「あぁ!その手があったか!!」 話は解決の道に進んでいるようであった。 私は何も口をはさむことなく、静かに想像をふくらましているのであった。