シチュー・カレーは圧力鍋、と我が家では決まっている。
一人暮らしをしてもう7年目となるが、フライパンを買い替えたことはないくせに、圧力鍋は一度買い替えた。
買い替えた、というのも実はおかしくて、二個目を買った、と言ったほうが合っている気がする。
鍋ではないこっちは、替えたのか替えられたのかよく判らないが、“カノジョ”も二、三度そういうことがあった。
当時、買いたての圧力鍋を使いたくて使いたくてで、彼女の家にまで持ち込んで料理をした。
「圧力鍋?高かったんじゃないの?」
相手も欲しがっていたものだから、声に少しだが非難の色が交じる。
スチール製で重かったが、圧力鍋にしては千円と安かった。
ゴロゴロ大きい野菜が短い時間でやわらかくなる便利さに、彼女の声はトゲをどこかに忘れてしまったらしい。目はキラキラしてきた。
「おいひー、じゃごいも♪ほふほふー」
自分の作ったものを美味しそうに食べてもらう…
ほくほくのじゃがいもが胃も心もあたためてくれた。
「重いし、置いていくわ」
ある日置き去りにした圧力鍋は、そのときは思いもしなかったが、帰らぬ人となってしまった。
関係がギクシャクしてしまい、なんともならず、とうとう別れるんだなというとき、
彼女の家の駐車場で僕は運転席から窓を開け、最後の会話をした。
「あ…圧力鍋は?」
「あぁ…、重いし…よかったら使って」
じゃあ、と言って急ぐ用事もないだろうに、逃げるように車を走らせた。
しばらくして新しい圧力鍋を買った。
同じのを買うのも、それより見栄えの悪いのを買うのもシャクだったので、
少しイイやつを買ってみた。
ステンレス製で重いは重いが、ピカピカに輝いている。
前のやつは光沢加工がされていなかった。
圧をかけたとき、あまりに重りがプシュー!っと勢いよく回るので驚いた。
前のやつはちょっと浮いてコトコト動くだけ、今度のはかなりジャジャ馬だ。
カレー、シチュー、角煮…
料理をするたびに、前のやつは…、今度のやつは…、前のやつは…、
いつも比べていた。
失敗して焦がしてしまうと、「あぁ!前のなら失敗せぇへんのに」。鍋に向かってどなったりもした。
前の鍋でした失敗など、どこかに消えてしまったようだ。
幾日、幾月と経ち、ある日から二つの圧力鍋を使いこなすようになった。
あっちではコトコトお鍋、こっちではプシュー!お鍋。
ずっと使おうと思っていたものが、急に帰らぬ人となったり、
もういないんだ、と思ったら急にまた出逢ったり…。
鍋の世界もなかなか旨くいかないが、それがまた面白いとこなのかもしれないな、と今は思う。
(じゃごいもでヒット中♪)
(電熱器 圧力鍋でもヒット中♪)